スウェーデン発祥のマッサージ

スウェーデンハンドセラピー

スウェーデン発祥マッサージの起源と歴史

スウェーデン発祥のマッサージは、一般的に「スウェディッシュマッサージ」と呼ばれ、その歴史の古さから「クラシカルマッサージ」「クラシックマッサージ」とも呼ばれています。

現代のオイルマッサージの源流と言われているスウェディッシュマッサージは、およそ200年前のスウェーデンにおいて、医師で、またフェンシングや乗馬のインストラクターでもあり、「スウェーデン体操の父」と呼ばれる、パール・ヘンリック・リン「Per Henrik Ling(1776-1839)」によって確立されました。

彼は、マッサージシステムを確立するために多方面を旅行して回り、マッサージや体操などを学び…

その後、1799年に設立されたフランツ・ナフテガル体育研究所ではドイツの体操方法を学び、またデンマークではフェンシングの教師として、自分の体操運動が体にどのような成果をもたらすのかを理解するために解剖学も学びました。

1813年、リンはストックホルムに戻り体操中央研究所という、スウェーデンで唯一の保健体操師・マッサージ師を養成する学校を設立しました。

当時のスウェーデンはロシアとの戦争に敗れ、兵士は傷つき闘争意欲も失い、国民は疲労と貧困に苦しめられていましたが、国王から、「子供から大人まで国民すべてを健康に導くものを考案するように」とリンに指令が下り、「人の手によるスキンシップを通じて、誰もができるエネルギーの交流と運動機能を向上させる」マッサージを考案しました。

現代のオイルマッサージの源流となっている「スウェーデン式マッサージ」の誕生です。

その後、多くの研究者によりスウェディッシュマッサージの科学的研究が進められ、筋肉療法として徐々にそのマッサージシステムが構築され、長い年月を経た現代においても、心と体を癒す健康法として、現在ではタクティールやベビーマッサージなどのタッチセラピー、また様々なエステティックやアロマオイルマッサージ、またスポーツマッサージなどの基本として世界で認知、発展を続けています。

スウェディッシュマッサージの技法

スウェディッシュマッサーは、筋肉や骨格に沿ってオイルマッサージをすることで、身体のより深部まで働きかけ、心の癒しと共に凝りや疲れの解消に効果が期待できるというものです。

まず身体の背面、前面から足、腕や顔や頭まで全身くまなく、無理なく深い筋肉にアプローチしていくため、痛みや揉み返しはなく非常に満足感のあるトリートメントです。

そのため、「時折痛みを感じるリンパマッサージは苦手だけど、柔らかく滑らすだけのアロママッサージでは物足りない」という方にはぴったりのマッサージと言えるでしょう。

スウェディッシュマッサージは、オイルの量、浸透率、筋肉への段階的アプローチ、そのすべてが非常に論理的に計算されている技法です。

その伝統的技法は、手技の形、順番、施術時間、そのすべてに意味があり、長年世界中の多くの方に愛され守られてきた伝統芸術とも言える技法と言える所以でしょう。

他のオイルマッサージとの違い

 「スウェディッシュマッサージ」はオイルマッサージの一種ですが、オイルをたっぷりと使用するアロマテラピーやロミロミとは違い、少量のオイルで効率よく筋肉をほぐしていきます。

最初は表面の筋肉を、オイルが浸透して適度な密着感が出てきたら…徐々に深い筋肉にもアプローチしていきます。
無理なくインナーマッスルにアプローチしていくので、揉み返しが少ないマッサージとしても知られています。
例えていうのならば、「スポーツマッサージに近い、リラクゼーション・ボディケア」とも言えるでしょう。

そのためスウェディッシュマッサージは、世界的に有名なバレエ団や、また有名なパフォーマンス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」等、さらに世界のトップアスリート達が好んで愛用しているボディケアとして知られています。

また、他のオイルマッサージとの大きな違いとしては、各施術部位において途中でオイルを塗り足さないという特徴があります。

初めはオイルで滑らせながら、徐々に筋膜や浅い筋肉にアプローチしていきます。

オイルが浸透してきた段階では、筋肉を捏ねたり捻ったりというスポーツマッサージ的な手技に移行していきます。

ケア、セラピーとしてのハンドマッサージ

ハンドマッサージといえば、ほとんどの場合はどんなマッサージでも、手で行うものであれば、全てハンドマッサージと言えます。

その意味では、スウェディッシュマッサージもアロマセラピーもハンドマッサージには違いありません。

また、全てのマッサージは、身体や心の癒しになるので、その意味でも全てのマッサージはケアであり、セラピーとも言えます。

スウェーデンの「タクティールマッサージ」も、「タクティールマッサージ」「タクティール刺激」「タクティールタッチ」など、施術する人によっていろいろな呼び方をしています。

なので、本来的にはマッサージの種類によって、それがただのマッサージなのか、それともケアやセラピーなのかと厳密に分類することは難しいでしょう。

しかし、例えばタクティールやハンドセラピー、アロマセラピーなどは、単に「心地よさ」を得るだけでなく、それによる治療的、療法的な効果を目指しているので、そのような手法ではあえてケアやセラピーという名前を使っています。

タクティールケア、ハプティックセラピーとスウェーデンハンドセラピー 

スウェーデンでは1960年代に、看護師であったシーブ・アーデビィ(Siv Ardeby)が、早産児のケアの中で、早産児に手で触れることによる発育が顕著であったことに着目してマッサージの手法を開発しました。

シェーブ・アーデビィはそれを「タクティールタッチ(Taktil beröring)」と名付け、各種の研修などで発表し評判を高めていきました。

タクティールを受けた患者や障害児が、施術後に落ち着きを得て、コミュニケーション能力の向上が見られることも見受けられ、またがん患者においては、その他にも痛みの軽減になることが患者側からの反応でも顕著になるなど、次第にタクティールタッチに対する認知が深まっていきました。

その結果、その後障がい児のケア、またがん患者の終末期における緩和ケアや高齢者ケア、認知症ケアでの実践へとその領域が広がっていきました。

このマッサージは、スウェーデンでは「タクティールタッチ」と呼ばれている他にも、

単に「タクティール」あるいは「タクティールマッサージ」また「タクティール刺激」などと、いろいろな呼び方がされています。

「触れる」マッサージと、その効果。

このマッサージは、筋肉や深い組織を揉みほぐすのでなく、皮膚を撫でるように柔らかく触るハンドマッサージです。

マッサージの中でも、いわゆるソフトマッサージと呼ばれるスウェディッシュマッサージなどは、柔らかく触れるにしても筋肉を揉み解すことをしますが、タクティールの場合は、あくまでも皮膚に触れることで、筋肉のような深い組織ではなく触覚神経に働きかけるところが大きく異なる点です。

触覚神経を刺激することで「快適ホルモン」とも言われるオキシトシンの分泌が促され、

それにより穏やかさと安心感をもたらし、施術する側と受ける側との間に、親密感と信頼感が生みだされます。

それが、施術する側と受ける側の間に、心と身体のコミュニケーションを促します。

また、スウェーデンハンドセラピーは「痛みの緩和」に貢献することも実証されています。

そのためスウェーデンでは早くから、がんや認知症などの緩和ケアの一環として、痛みの緩和に「代替医療行為」として使われています。

また、一般的にはオイルを使いますが、背中は服の上からもできますし、オイルを使うことも出来ます。

この他にも特徴付けられる効果として、硬直した筋肉の緩和があります。

手が硬直している場合に、今まで開くことが難しかった手がマッサージの途中から硬直が緩み、終わる頃には手が柔らかくなり開くのが容易になることが往々にしてあります。

さらに、睡眠状況の改善や便秘の改善といった身体への働きかけだけでなく、施術によってもたらされる穏やかさや安心感は精神的な症状にも働きかけ、「落ち着き」が得られます。

その他にも触覚神経が刺激を受けることで、自分の身体領域を確認・認識・再認識することにも繋がります。

スウェーデンハンドセラピーと、タクティールケア、ハプティックセラピー

現在日本には、タクティールケア、ハプティックセラピーと、スウェーデンハンドセラピーの三つの流れがありますが、基本的にはそれらの手法も考え方も同じものです。

ただ、日本ではそれぞれが登録商標を持っているために、同じ名称を使うことが出来ないという現実があるのと、また、それぞれ別の組織で運用されているために、時間の経過で手法にそれぞれ若干の違いが出てくるというのも当然あるかもしれません。

また、それぞれ運営の方針が違うために、教育や普及という点で違いがあるでしょう。

インストラクターの仕組みやあり方、さらに対象とする分野にもそれぞれ違いがあり、運営についても、全体の事業の中での一環の運営なのか、あるいは専門的に運営するのかでも、それぞれ違いがあります。

しかし、なぜそれぞれの別の呼び方になっているかについては、それなりの理由があり、それには、タクティールが日本に導入されてからの経過を説明しなければなりません。

その経過としては、(いろいろ複雑ですが…)、

元来、スウェーデンでタクティールマッサージとして主に障害者福祉や高齢者の医療・福祉で普及されていたものを、当時日本にあったスウェーデン福祉研究所を通して、2005年に日本に導入され、特に認知症高齢者のケアの一環として、「タクティールケア」という呼び方で運営されました。

タクティールケアは、現在も日本スウェーデン福祉研究所によって運営され活動を続けています。

2010年に、日本を本拠としていたスウェーデン福祉研究所は、スウェーデン国内での組織編成によって、スウェーデン・クオリティケア(SQC)として再出発しました。

SQCでは、タクティールケアを別の形で継続運営するために、日本に導入する際の指導者であったベーリット・クロンファルク博士を招き入れ、博士の指導により、「ハプティックセラピー」という別名で活動を始め、その運営と活動のために一般社団法人ハプティックセラピー協会が設立されました。

その後2013年には、SQC内での業務編成があり、そのため一般社団法人ハプティックセラピー協会は「一般社団法人スウェーデンハンドセラピー協会」と改称し、独自の形で活動を続けました。

そのため、現在の日本では、日本スウェーデン福祉研究所が「タクティールケア」、またスウェーデンクオリティケア(SQC)では「ハプティックセラピー」、そして、スウェーデンハンドセラピー協会では「スウェーデンハンドセラピー」と称して、それぞれ運営を行っています。

いずれにしても、この三つの呼び方は同じ「タクティール」の流れで、手法も理論や姿勢も同じですが、その対象や運営の形、また組織形態でそれぞれ違うものがあります。

いろいろ違う中で、それらが融合される方が良いのか、あるいはそれぞれ別の方向で共存するのが良いのかということでは議論の余地があるかもしれませんが…

いずれにしても、スウェーデン式マッサージとともに、日本においての認知と手法、そして何よりも、スウェーデンの考え方が正しく伝わり、結果的に日本とスウェーデンの架け橋になることが期待されます。

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